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第5話 向こうの世界で

Author: うきぐも
last update publish date: 2026-08-27 15:06:57

とりあえず事件は解決したのでそのまま学校は行った

基本的に真面目な俺である

そして学食で早めの夕食を摂りながら冷静になって考える

ふむ……

こっちにもでるんだ……

多分だけど世間でニュースとかになってないことを考えると、今のところモンスターの出現はあいつらだけだとは思うし、もしそうなら明らかに俺となにか関係がある

雑な考察だけど、俺が向こうの世界と行き来することによって特異点になっていて、二つの世界がどうのこうの……に違いない

でも、モンスターがこっちの世界に出る条件は今のとこ不明だし、俺にはどうすることもできない‥‥‥よな?

もちろんこれからも冒険はするし、その過程で出会ったモンスターは倒す

そしてあの世界が大好きでプレイヤーをやってた俺が、それを現実で感じられるリアルの異世界生活もやめるわけにはいかない

そうなるとまたこっちにモンスターが出るのかもしれないけど、そのときはまた倒すだけだ

法則がわからないから対策はできないが、俺と出会わない限り向こうのモンスター達は実体化しないのならそう被害は出ないだろう(という希望的観測)

もし何か起きたとすればそれはこのルールを作った異世界の女神様のせい……

でもこの先向こうの世界でもっと強力な災害級のモンスターを倒すことになって、それがこっちの世界に出るようなことがあったら……そのときはどうなるんだろうな……

―――――――――――――――――――――――――――――――――

この時、俺はとても大事なことを忘れていた

向こうの世界で最初に戦った最強の存在

『カオスドラゴン』のことを

でもまあ、それはまだ先のお話

―――――――――――――――――――――――――――――――――

向こうの世界で倒したモンスターとこっちに入り込んでくる事象がリンクしているのであれば、この先どこかに『砂漠の皇帝』デューンエンペラーや、一個小隊のオークがやってくるはずである

学校からの帰り道

信号待ちで自転車を停止させながらの思考

もし俺が異世界に行きだしてから居たところに湧くのであれば、出そうなのは通学路の国道や、買い物で寄っているスーパー周辺、大学構内……

でも少しずつ進みながら脳内ミニマップ(索敵レーダー)に意識を集中させるも、検知範囲内にモンスターを示す赤い光は存在していない

今のところ何か起きそうな様子はない

「ねえ湊(みなと)君じゃない?」

「うわあ!!」

至近距離で背後から声をかけられて俺は思わず飛び退った

あまりにもレーダーに集中するのはヤバいな。気をつけよう

「え、何?急にゴメン」

振りむいたところに立っていたのは大学の同級生、日枝薫(ひえ かおる)

小柄で眼鏡。同じ学科で成績トップの才女である

「考え事してた時に急に声かけられたからつい」

「なんかすごいキョロキョロしてたからどうしたのかなって。探しもの?」

……なかなか答えにくい

けど確かに不審な動きだったかもしれないし、ヘタに誤魔化すのも良くなさそうだ

「探し物というか探し人というか……」

「ふーーん……?」

あまりいい回答ではなかったか

彼女は頭がいい。それは勉強だけにとどまらない

いつも何かにつけて気の利く人なので、すなわち洞察力が高いのだろう

なので何を探しているかに興味を持たれるとかえって面倒なことになりそうだ

「お邪魔じゃなければ手伝おうか?」

ほらきた。返答がまずかったようだ

表情から察するに、今の彼女の胸裏を支配しているのは明らかに親切心ではなく好奇心である

彼女と舌戦を行っても利点は全然ないし、この状況を説明しきるのはおそらく無理だし、仮に全てが伝わったとしてもロクなことにはならないだろう

よって返答はそつなく

「あ、いや、今はいなさそうだから大丈夫」

「ふーーーーん」

何がお気に召さなかったのか……彼女の目がだいぶ鋭くなっている

俺は日枝さんとプライベートで話をするような仲ではないが、クラスの飲み会のような場所で多少話をしたことはある

その時の印象としては頭の回転が速く、場の空気を乱さないよう謙虚にふるまう人であった

なのにだ。

今そこにいる彼女の目は明らかに俺の嘘を追求しようと何か画策をしているそれだ

一体何がこの人の興味を引いたのか俺には全然わからない

「じゃあ、また」

彼女の視線を切ってその場を強引に離れようとしたのだが

「そういやさ」

「な、なんですか」

まだ何かあるのか?

「なんで敬語?……そういえば今日学校近くの神社に雷落ちたの知ってる?」

あー……。俺の雷魔法か

下手なごまかしで矛盾を突かれると更にややこしくなるのできちんと答えよう

「ちょうど俺が学校行くときに落ちたからなんとなくは知ってる」

「そうなんだ。なんか雷落ちたとこにいた人の話だと、その前に隕石みたいなのがあったらしくてさ」

俺やん。隕石じゃなくて実は人間なんよそれ

確かに普通に考えたら巨大落下物も落雷もちょっとした話題にはなりそうな出来事だし、それが同時期に同じ場所に起きたら噂にもなるか

「しかもその時は晴れてたのに雷が落ちるのも不思議だよね」

「そうなんだ。実際に見たわけじゃないから全然知らなかったな」

俺がそう答えた瞬間、彼女はほんのわずかに笑みを浮かべた

「ふふん。やっぱり何か隠してるな?」

何故だ。何かまずいことでも言ったか?

「え、なんで?」

「まず。なんで?って答えるのは思い当ることがある人なのさ」

「うおっ」

「そしてなぜそこに確信があるかというと、私そこにいたもん」

「えっ」

やばいな。かなり押され気味だ

確かに周囲の参拝者にはそこまで注意を払わなかったが、そこまで大勢の人がいたわけではないし日枝さんがいたような記憶はないが…

「君は今、私があの場所にいなかったはずだが…!とか思ってるでしょ。実は私、週末だけあそこの神社でバイトしてる」

なー!

まさかの参拝客側じゃなく、社務所の中だったか

「君はあのとき落雷の現場にいた。だから境内の森の中にクレーターがあったのを見ていたはずなのに、なぜかそれは知らないふりをした。つまり自分がそこにいたことを私に悟られまいとした!なんか怪しいよねえ。どういう現象?」

なんて鋭いやつなんだ

顔は笑っているが、生半可な返答では私の事は誤魔化せないぞと顔に書いてある

「さあ生半可は返答では私は誤魔化されないぞ」

言ったし

さあどうする俺

落雷が実は魔法だとは思いつくわけもないだろうし、モンスターの存在なども一般人が想像できる範疇を超えているだろう。が……その関係性を疑われたくなくて無関係なことを装ったのが裏目に出た

……ん?

「ああああああ」

「急に何!?」

突然のできごとに、俺は思わず日枝さんの方を指さして大声を上げた

正確には彼女の立っている場所の向こうの光景に対してである

俺たちは夕暮れ時のスーパーの駐車場で先ほどの会話していたのだが、店の中にちらっと見えたものがあったのだ

「やばい。出た」

「何が!??」

オークです

店の中うろちょろしてます

「行かねば」

「このタイミングで!??」

俺は背後で叫ぶ彼女を残して店内に向かって走った

――――――――――――――――――――――――――――――

大学の同級生、日枝薫をその場に放置しスーパーに入ると、そこには買い物客に混ざってオークがわらわらと

遠めに観察している限り、オークは商品棚の間をまるで木々の間でも潜り抜けるかのようにうろちょろしている

そして店内にいる人間とはお互い認識もしてないし、物理的にも不干渉ですり抜けているようだ

だが神社にいた『キンググローブ』は周囲の植物を揺らしていた

つまり人間以外のものには影響を与えうるはずだ

もたもたして店内を破壊しだしたら大変だ

ざっと(索敵レーダーで)数をカウントした感じ、30体はいそうである

しかも散らばって移動しているので一網打尽にすることはできない

魔法がこの世界では普通に物理現象として効果を発揮することは今までの経験でわかってるので(燃えたり凍ったり等)、ここで広範囲魔法、ましてや地震や津波や隕石みたいな大掛かりな魔法は使えない

普通に店が壊れるし、なんなら町が壊れる

よし、ここはマリチに倣って範囲睡眠魔法で寝かせて視覚外から各個撃破だ

「すいみ……」

「急に走り出すから何事かと」

背後から少し甲高い声が振ってきた

「うおおおお」

「ええ!?」

動揺して途中で声が出てしまい、睡眠魔法は発動しなかった

「日枝さん?」

「は、はい」

「後で話すからマジでちょっとだけ外に出てもらってていい?」

「ええーーー何それ」

「ちゃんと説明するので」

一瞬思案したようだが、彼女は渋々うなずいた

そして一瞬だけ鋭い目で振り返ったのち外に出ていってくれる

さあここからは速攻だ

というか、危ないとこだった

彼女の不意の声かけで一旦冷静になったのは結果的に良かった

敵対行動をすると実体化するんだから、睡眠魔法も例外ではない

他の客とか店員さんにバレて大事になるとこだった

となるととる行動は一つ。モンスターの知覚範囲ぎりぎりから単体魔法で一人ずつ倒すしかない

しかも他のやつに絡まれないよう迅速に

ソーファンの世界には8つの属性がある

火、氷、風、土、雷、水そして光と闇

6つの属性は現実世界の陰陽五行説のように相克関係が成り立つ

すなわち水は火に強く、火は氷に強い、などなど

これらはそれぞれの力を司る精霊たちの力を使うので精霊魔法と呼ばれる

そして光と闇の属性はそれらとは別にお互いが拮抗した属性であり

こちらはそれぞれ神聖魔法、暗黒魔法と呼ばれる

そしてそれぞれの属性にその力を集めて放つ攻撃魔法があるのだが

精霊魔法はすべて自然にある力を使うので自然現象として店に被害が出そうだ

火だと火事になるし、水だと水害だし、土なんてほぼ物理で落石だ

あえていうなら氷や雷、風はまだマシに思えるが、はみ出たエネルギーでいろいろと商品に影響は出そうだ

ならば使うは光と闇

だがここには制約があって、なぜか光と闇の魔法は癖のあるものが多い

リキャスト(再詠唱時間)が長かったり、消費魔力量が多い等

即死暗黒魔法などは全MPを一撃で消費する

そうでないものだと、じわじわ蝕む系の魔法が多くこの場には適さない

であればこの場で使うべきは神聖魔法

一番使い勝手の良さそうなものは光の力を集めてぶつける『聖球』の魔法だ

低レベルの者であれば消費魔力も多いしリキャストも長く連発はできないが、今のレベルや装備であればそこは解決できている

オークの知覚は視覚である。つまり前に立たなければ知覚されるリスクは少ない

少しずつ移動しながら知覚範囲ぎりぎりの位置に行き、後ろを向いている敵をターゲッティングする

そして

「聖球(ホーリー)」

ドンッ

白く輝く玉が集約し、オークの一体が光となって砕け散った

本来のリキャストは1分だが、そこをスキルや装備で短縮しており次の詠唱までは10秒

移動しながら各個撃破するには十分である

下位のオークたちの知能は低い

うろうろしながら時折商品棚にぶつかり商品を落とす者も出だしている

同種族の敵を攻撃すると近くにいる敵にもリンクして襲ってくる仕様があるが、一撃で倒した場合はその限りではない

俺は神聖魔法を放ち続け、ようやく最後の一体を光に変えた

レーダーで敵のいないことを確認して慌てて外に出ると、日枝薫は腕を組んでしかめ面で待っていた

10分ほどの時間ではあったがちゃんと外で待っていたとは律儀な女性である

「お待たせしました」

俺を見て腕をほどくと腰に手を当て、ズイっとこちらに身を乗り出して言った

すこし上体を引きながら俺はおそるおそる話し始める

「えーっとどこから話せばいいかな……」

「なんでお宮に行ったのに行ってないって言ったのか、からかなー」

やっぱそこだよな

別に全部言っていいんだけど、どう考えても信じてもらえっこないし説明が難しいんだよなあ

どうせ細かく説明しても無駄だろうし、いっそ全部言ってしまおう

「日枝さんさ。ソーマファンタジーって知ってる?」

「え?急に何の話?」

さすがに面食らった表情だ

だが俺はかまわず話を続ける

「ゲーマーならだれでも知ってる有名なオンラインゲームなんだけどね」

「知識としては知ってるよ。かなり長く続いている多人数同時参加型オンラインRPG」

「へえ。知識として知ってるだけでも意外だった」

「あらそう?勉強ばっかりやってるイメージだった?」

彼女は皮肉っぽく笑い声をあげる

「いやまあそうでもないけど、ゲームに詳しいイメージはなかった」

「そう。それで、そのソーファンがどうしたの?」

いまソーファンって言ったよな?

が、その思考はすぐに遮られ、俺は1つ忘れてたことを思い出した

今、突如目に前に現れた光景によって

日枝さんの背後にぼんやりと揺らめくような闇が浮かび上がり、そこに

「”全身皮剥狂”ザクトズルト……」

そいつは俺の正面に立っている日枝さんの背後に忽然と現れた

しかも実体化した状態で

そう、おそらく知覚範囲内で正面に俺がいるためだろう

さすがにやばい

背中にかすかに冷たいものを感じ

俺は右手の二本の指を静かに伸ばして、敵を指定した

「え、なに。なにその動き!」

「ゴァァアアア!!」

「デス(即死魔法)」

敵の唸り声で彼女が振り返るのと、俺の魔法が発動するのは同時だった

一瞬にして闇に包まれ、そして光となって消えていくオーク

そしてその光景を目を見開いて見つめていた彼女

「な……今の……な、に…?」

「話せば長くなるんですが……」

さすがに言葉に詰まってぼそぼそと呟く彼女と、真顔のまま立ち尽くす俺

しかしその次に彼女が発した単語は俺には意外なものだった

「オーク?」

「えっ」

彼女の口から出た言葉に俺は耳を疑う

そういえばさっきソーマファンタジーのことソーファンて略したしな?

俺のこわばった表情を見て、日枝薫はややおどけた表情を作って言った

「実は私、ソーファンプレイヤーだったりする」

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